設立趣意

高専が設立されて32年が経過しました.その間,高専が技術者の教育と地域の発展等において果たした役割は,社会的に一定の評価を得ています.一方,1990年代に入りバブル経済崩壊による経済の混乱や産業空洞化など,わが国は歴史的な曲り角に来ています.教育界も決して例外ではありません.大学では学部・学科の改組,教養部廃止,さらに大学院大学と学部教育中心大学への二極化へと大きなうねりとなって変容しています.高専にあっては15歳人口の減少や高学歴志向が高専の存続に危機感を覚えさせ,また世間からの看過に忸怩たる思いを抱かせているのも事実です.しかし,この30余年に高専が培い,かつ蓄積してきたものは決して蔑ろにされるべきものではありません.むしろ私たちは誇りに思います.その経験と教育・研究の実績を踏まえ,今後なお一層飛躍せねばなりません.

高専に働く人々は各種学会,文部省・国専協の教育研究集会,あるいは「高専教育」誌等を通じて研究や意見を発表してきましたが,高専プロパーの諸問題については十分討議,発表する場がありませんでした.高専を共通の土俵にして教育・研究について発表する場を構築することは極めて大事なことと考えます.私たちは「日本高専学会」の設立を実現し,その目指すべき特色ある教育と研究の充実に邁進したいと考えるものです.

この学会で取り扱う課題は次のようなものが考えられます.
  1. 高専教職員には教育と研究を常に一体化して模索している人が多い.それは,自己の専門においてどのように展開されてきたか,また今後どのように発展しうるのか.
  2. 高専は各地域で他の高等教育機関もなし得なかった独自の役割を果たしてきている.それはどのようなものか.また地域とどう結びつき,今後どのように関係を強化していくべきか.
  3. 高専における教科指導,生活指導,教育寮における指導などは他の諸教育機関と異なる側面が多いため,さまざまな工夫が行われてきており,その実績も豊富である.各高専での取り組みをいかに高専共有の財産にしていくか.
  4. 企業あるいは高専卒業生は高専の教育と研究をどのように評価し,また何を高専に期待しているか.高専教育の発展にどう寄与してもらうか.
  5. 文部省・国専協の高専振興方策では,中堅技術者の育成を出発点として,実践的技術者,さらにノウハウ型技術者の育成へと技術者像を変化させてきている.果たして,高専において目標とすべき技術者像はどのようであるか.
  6. 高専卒業生のための技術科学大学の創設,大学への編入,高校からの編入生の受け入れ,大学への昇格論,さらには専攻科設置など,当初,高専が目的としてきた「中卒後の5年間の完成教育」制度は大きく変質してきている.そこで,これまでの高専制度を検証して,その変化について客観的,科学的に分析し,将来の展望と行方を探れないか.
  7. その他,高専に関わるあらゆる問題.
以上の事柄を深く討議,研究する場としての「日本高専学会」を設立しました.関係各位の入会を切に求めるものです.

1995年8月1日