2006.3.6

論文奨励賞の審査を終えて

日本高専学会論文奨励賞審査委員会


 2005年度の日本高専学会論文奨励賞には、全国9高専から合計11件の申請があった。その内訳は、機械系論文2件、電気電子系論文4件、化学物質系論文2件、建築土木系論文3件であった。

 審査においては、申請時に示された「審査基準」にしたがって、論文の「独創性・新規性」、「技術的有用性」、「完成度」について第1次審査を高専の専門教員に依頼し、その評価点を50%、第2次審査においては、4名の表彰審査委員会4名が、「国際性」、「地域性」、「社会貢献度」、「論文掲載の有無」、「発表の有無」、「その他」の項目について審査を行い、その評価点の配分を50%とした。

 以上の第1次および第2次の審査の結果を踏まえ、論文奨励賞4件を選出し、その最高点の取得者を最優秀とすることにした。

 今回応募された論文は、以下の点において、いずれもすばらしいものであった。

  1. 国内外の権威ある学会において、査読付き学術論文がファーストオーサーとして掲載されていた。とくに、最優秀として評価された学生の到達レベルは、大学院修士課程の学生のレベルを超える優秀性を有していると判断された。従来から、専攻科生の到達目標としては、修士1年生レベルという共通概念が示されていたが、本結果は、その共通概念を覆す事例をとして注目に値する。
  2. 最優秀以外の3名についても、その研究業績は、大学学部生をはるかに 超えており、修士課程2年生の研究業績に相当、あるいは、それを凌ぐ結果が示されていて、これも評価されるべきことといえる。
  3. 学会等での口頭発表においても優れた実績が応募者全員において示されており、これも大学学部生の実情と比較すると、はるかに優秀な成果が修められている。なかには、本科5年生と専攻科2年生の3年間において、毎年2回以上の学会発表を行っている学生もいるが、それらの成果が上述の論文化へと結びついていることが推測される。
  4. 教員とともに、特許を申請している学生がいたことも注目された。また、企業と共同開発し、地域貢献をしている学生もいて、その成果も多岐にわたっていた。

 以上の4点に示された特徴を踏まえると、専攻科生の研究レベルの高さと実績の優秀性が明確に示されており、それらは、本学会論文奨励賞にふさわしいものであるといえる。

 以下、受賞者と選考理由を示す。


【受賞者と選考理由】

●論文奨励賞(最優秀)
氏名 山崎 奈穂
所属 高知工業高等専門学校専攻科物質工学専攻
論文名 麻酔薬と生体膜の相互作用に関する研究
    -新たな相互作用測定手法の確立とその応用-

イオン選択性電極法を用いた生体モデル膜への麻酔薬の結合量測定法を開発し、これまで分析できなかった解離性の麻酔薬の分析を行った。この過程で、数十種類の感応膜組成を作製し、度重なる試行錯誤を経て、最も応答性のよい組成の選定に成功した。これらの成果が、学術論文誌(国内外それぞれ1報ずつ)に掲載されるとともに、国内外の学会で合計6件の口頭発表を行った(いずれもファーストオーサー)。この2年間の成果は、修士課程の大学院生のレベルをはるかに超えており、高専専攻科生として他の学生の模範となる成果を修めたことが、日本高専学会論文奨励賞(最優秀)に値すると評価された。

●論文奨励賞
氏名 今井 崇博
所属 長岡工業高等専門学校専攻科環境都市工学専攻
論文名 硫黄酸化還元サイクル活性型廃水処理法による低温融雪剤廃水処理プロセス内に構築された微生物群集の解析

硫黄の酸化還元サイクルを活性化した新規の省エネタイプの下排水処理システムを開発し、そのシステム内で構築された微生物群の構造解析に分子生物学的手法を適用するとともに、微生物群を簡単にモニターする手法を開発した。これらの成果を、学術論文誌に掲載するとともに、国内外の学会で合計9件の口頭発表を行うなど、これらの一連の研究実績が評価された。また、他の高専や企業と共同の研究開発を行い、地域社会や産業界へ貢献していることも注目された。
以上の優れた業績が、日本高専学会論文奨励賞に値すると評価された。

●論文奨励賞
氏名 高松 慎也
所属 高知工業高等専門学校専攻科物質工学専攻
論文名 ハーフトーンマスク用多層レジスト技術の開発

半導体・液晶デバイスの高精度化をめざして、上下2層のレジストにハーフトーンマスクを用いることで、下層レジストのみを残存させながら安定したパターニングを可能にするとともに、レジストの露光・現像を1回だけ行うことによるコスト削減、プロセスの簡便化、現像時の排液量低減による環境負荷・エネルギー低減を実現させた。また、これらの研究成果が、学術論文誌に掲載されるとともに、国内外の学会において合計9件の口頭発表が行われた。また、特許を2件、高専教員と共同で出願するとともに、「キャンパスベンチャーグランプリSHIKOKU」において最優秀賞を取得した。
以上の優れた業績が、日本高専学会論文奨励賞に値すると評価された。

●論文奨励賞
氏名 伊藤 大介
所属 神戸市立工業高等専門学校専攻科機械システム工学専攻
論文名 水素噴流拡散火炎の挙動に関する実験的研究

爆発範囲が広く運搬や貯蔵が難しいという理由から、燃料としては敬遠されてきた水素の燃焼実験を行い、水素噴流拡散火炎の安定燃焼機構を解明するとともに、二酸化炭素を発生させないクリーンな燃料としての実用化を目指して、水素燃焼特性を詳細に検討した。これらの成果を、国内外の学会で合計19件の口頭発表を行った。また、NPO組織との共同研究を発展させた。さらに、水素技術の普及のために、小学生高学年以上を対象とした紙芝居を作成し、「水素社会」への啓蒙普及活動も行った。
以上の優れた業績が、日本高専学会論文奨励賞に値すると評価された。



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