2008.2.29

専攻科論文奨励賞の審査を終えて

日本高専学会表彰委員会


2007 年度の日本高専学会論文奨励賞(第3回)には、全国 12 高専から合計 15 件の申請があった。その内訳は、機械系論文1件、電気電子系論文10件、化学物質系論文2件、建築土木系論文2件であった。分野に片寄りがあるものの、昨年度までにくらべ新規申請の高専が8校もあった。これによって、これまでの申請校は 24 校(全体の約 40 %、延べ数 30 校)、応募件数は 37 件となり、本論文奨励賞が徐々に裾野を広げていることが明らかである。

申請時に示された「審査基準」にしたがって、次の二段階の厳正な審査が行われた。第一次審査は、各論文について各 3 名の高専専門教員に依頼し、論文の「独創性・新規性」、「技術的有用性」、「完成度」について 5 段階評価し、その評価点を 50 %とした。第二次審査においては、5 名の表彰委員会審査委員が、「国際性」、「地域性」、「社会貢献度」、「論文掲載の有無」、「発表の有無」、「その他」の 6 項目について審査を行い、その評価点の配分を 50 %とした。

以上の第一次および第二次の審査結果を踏まえ、論文奨励賞 3 件を選出した。残念ながら、最優秀賞に該当する論文がなく、今回は見送ることにした。

今回の選考における印象深い注目点を以下に整理するとともに、専攻科生の研究実績と実力の高さに敬意を表したい。

  1. 応募件数は 15 件で、過去2年間の 11 件にくらべ増加したが、レベル的には昨年に比べ劣っていた。特に、第1著者としての学術論文(査読あり)の数が減少していた。しかし、国内の学会誌への発表あるいは口頭発表は活発に行われ、これらの成果は、大学院修士課程の到達レベルを越え、博士過程の学生における成果に迫っている学生もおり、改めて高専専攻科生の到達水準の高さと実力を確かめることできた。

  2. 2006 年度よりもまして国際会議への参加が増加している事実、および参考資料として添付された 800 ~ 900 点の TOEIC スコアシートは、「高専生は英語に弱い」というこれまでの評価を覆すものである。このような指導教員と専攻科生の国際的な取り組みは、全国の高専専攻科生に国際的コミュニケーション能力の涵養がなされている証拠であり、これらは高専本科生への強い刺激ともなり得るものである。特に、今回の優秀賞受賞者は、専攻科で1年間の研究留学後さらに招聘されて半年の研究員として活躍したもの、4年次に1年半の語学留学経験があり苦手であった英語を逆に武器にしたもの、インドネシアや中国で3ヶ月間毎月1件の国際会議に参加して発表したもの、と大学院の修士課程以上の活躍をしている。

  3. いずれの論文も、独立行政法人高等専門学校機構の中期計画の一環である教育・研究の国際化、創造性教育、特許教育などに即しており、高専の発展に大いに寄与するものとして評価することができる。

  4. それぞれの学生は、ロボコンや学生会、あるいは後輩への報告会など、各自の能力を活かした様々な活動にも積極的に参加しており、高専がめざす地域連携の担い手としての専攻科生の活躍も特筆される。

以上の4点に示された特徴を踏まえると、専攻科生の国際的研究レベルの高さや国内外における共同研究や特許、地域連携などにおける多数の実績が明確に示されており、それらは本学会の専攻科論文奨励賞にふさわしいものであるといえる。

以下、受賞者と選考理由を示す。


【受賞者と選考理由】

●最優秀賞
 該当者なし

●優秀賞
 氏 名 城 鮎美
 論文名 チタン鋳造合金のX線応力測定
 所 属 神戸市立工業高等専門学校専攻科機械システム工学専攻2年

 X線の吸収が大きくかつ粗大結晶を有するチタン鋳造材料のX線による残留応力測定は、非常に困難で世界的にも手付かずであったが、粗大結晶であることを逆に利用して、結晶粒1粒1粒を単結晶とみなして、X線単結晶応力測定を行うことで、一挙に解決した。また、それに必要な4軸制御の試料台を考案し、長時間の自動測定と精度の高い測定を実現した。本研究は、ハルピン工業大学(中国)やインドネシア原子力研究所と共同で行うと共に、日本原子力研究開発機構、インドネシア原子力研究所、高輝度光科学研究センター( Spring - 8 )などにも積極的に出向いて行われた。
 これらの成果は、国内の口頭発表はもちろんのこと、平成 19 年 6 月から 8 月まで毎月1件の国際会議や国際セミナーで公表された。
 一方で、在学中はロボコン、学生会、ものづくり公開講座などにも積極的に参加し、専攻科修了後は大学院への進学がきまり、研究者への道を目指している。その姿勢は、同校HPの在校生ロングインタビューに掲載され、多くの関係者(特に女子中学生)に夢を与えた。
 以上の優れた業績が、日本高専学会論文奨励賞に値すると評価された。

●優秀賞
 氏 名 藤田 彩乃
 論文名 Space Charge Distribution with the Phase Resolved PEA
     Method in XLPE Subjected to a 50 mHz AC Field
 所 属 沼津工業高等専門学校専攻科制御情報システム工学専攻2年

 電力ケーブルの絶縁材料である架橋ポリエチレンフィルムに、印加周波数として商用周波数である 50 Hzと超低周波である 50 mHz を用い、フィルム内の空間電界分布を、位相分解能をもつ「 PEA 法」を用いて測定している。直流電界下での PEA 法による研究は多くみられるが、交流電界下で位相毎に空間電荷分布を研究した報告は少ない。また、印加周波数を商用周波数よりも低くすることにより架橋ポリエチレン中に電荷注入が促進されることを実験データから示唆しており、絶縁劣化診断を行う上で極めて重要な知見を明らかにした。
 これらの成果は、共著の国際学術論文1件および筆頭著者4件を含む10件の口頭発表で報告されているが、うち7件が国際会議(筆頭は3件)であり海外での活躍が顕著である。
 これは、専攻科1年生のときに、1年間私費研究員としてカナダ国立研究所において上記の研究を意欲的に行い、さらに半年間は客員技師として招聘された結果である。その語学力( TOEIC 795 点)と会わせて高い評価を得ている。これら一連の活動は学内においても報告され、下級生に大きな刺激を与えた。
 以上の優れた業績が、日本高専学会論文奨励賞に値すると評価された。

●優秀賞
 氏 名 窪田 純
 論文名 Sub-Pico Meter Order Wavelength Resolvable WDM Distributed
     Sensing System Using Wave-guide Ring Resonator and Fiber
     Bragg Grating
 所 属 長野工業高等専門学校専攻科生産環境システム専攻2年

 建築構造物ヘルスモニタリング技術のひとつに、光ファイバを構造体に這わせて布設し、大型構造物各所の主として歪の分布を計測する技術があるが、実用化するには検出分解能を大幅に向上させる必要があった。本研究は、従来からの歪検出センサである光ファイバブラッググレーティングに、光通信の最先端のデバイスである導波路リング共振器を組み合わせることにより、従来技術に比べ数十倍の計測分解能を実現できることを理論的、実験的に明らかにし、光ファイバ応用分布計測の技術分野において革新的方法を提案した。この技術は電気を用いないため、爆発/火災の危険性がある石油プラントや化学プラントに対しても実用化が期待できる。
 これらの成果は、国際会議(査読つき、共著)で口頭発表されると共に、3件の特許として申請し、受理されている。
 一方で、4年次に2年間休学し、カナダへ1年半の語学留学を行い、TOEIC 875 点の実績をもつと共に、学生会活動に加え、語学力をベースに「コミュニケーション同好会」を立ち上げるなど、幅広く活躍している。専攻科修了後は、自動車関連メーカに就職がきまり、国際的エンジニアを目指している。
 以上の優れた業績が、日本高専学会論文奨励賞に値すると評価された。



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